健康のためにからだを動かすことは良い、ということは誰でも思うことです。
いちばん手っ取り早く始められる運動、それがウォーキングです。
ウォーキングは高価な道具を揃える必要もなく、たくさんの人数がいないとできないスポーツでもありません。
誰でも思い立ったときに始められる運動です。
最近はスマートフォンに歩数計アプリが入っていたり、歩数だけではなく
心拍数や睡眠の質も計れるスマートウォッチなど、身に着けるだけで
歩数がわかるようになったので、意識する人も増えているように感じます。
以前は万歩計と呼ばれることが多かったこともあり、
「一日一万歩」が理想なのだと思っている人も多いようです。
それって本当なのでしょうか?
大人の歩幅の平均が70cmほど。一万歩というと約7kmということになり、
必要な時間も1時間半~2時間弱というところでしょう。
けっこうな時間を要しますし、1時間以上歩くための時間を毎日確保することは難しいです。
厚生労働省のホームページにはこのように載っています。
身体活動量が多い者や、運動をよく行っている者は、総死亡、虚血性心疾患、高血圧、
糖尿病、肥満、骨粗鬆症、結腸がんなどの罹患率や死亡率が低いこと、
また、身体活動や運動が、メンタルヘルスや生活の質の改善に効果を
もたらすことが認められている。
更に高齢者においても歩行など日常生活における身体活動が、寝たきりや
死亡を減少させる効果のあることが示されている。
生活習慣病の予防などの効果は、身体活動量(「身体活動の強さ」×「行った時間」の合計)
の増加に従って上昇する。長期的には10分程度の歩行を1日に数回行なう程度でも
健康上の効果が期待できる。家事、庭仕事、通勤のための歩行などの日常生活活動、
余暇に行なう趣味・レジャー活動や運動・スポーツなど、全ての身体活動が健康に
欠かせないものと考えられるようになっている。
長時間歩き続けることを推奨している訳ではなく、ちょっと意識をすれば
生活習慣病の予防ができそうと思えるような内容ですよね。
もし、今まではスマートフォンに入っている歩数計アプリを見ていなかった人も、
半日ほど普通に生活をしたあとに歩数を見てみると「こんなに歩いていたの?」
ということに気付けるかもしれませんよ。
また、健康のために必要な歩数を分かりやすく示すものに「中之条研究」があります。
中之条研究とは、東京都健康長寿医療センター研究所が行った、
群馬県中之条町の65歳以上の住民5000人を対象に身体活動と病気予防の
関係について調査したものです。
その調査の結果、健康長寿を実現するために必要な一日あたりの歩数と
中強度(安静時代謝量の3倍以上)の活動時間が明らかになってきました。
身体活動の強度は「低」「中」「高」の3段階に分けられます。
安静時の代謝量を基準に、低強度の活動は安静時の3倍未満、中強度は3~6倍、
高強度は6倍以上の代謝量に相当します。
低強度の身体活動が、健康にあまり効果がないことは周知の事実。
一方、高強度の活動を行うと、細胞内で活性酸素が多く発生し、遺伝子を傷つけます。
通常、傷ついた遺伝子は修復されますが、それが間に合わないと、糖尿病や認知症、
がんなどの思い病気になる可能性が高まります。
このことから、激しい運動はからだによくないと考えられています。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ということでしょう。
したがって、健康づくりでは、免疫機能を高めてさまざまな生活習慣病の予防や
改善に効果がある中強度の身体活動が勧められます。
中之条研究の結果、健康寿命を実現するためには必要な一日あたりの歩数と
中強度(安静時代謝量の3倍以上)の活動時間が明らかになってきました。
具体的に、11の病気・病態に影響を及ぼす日常身体活動の目安も示されています。
これによると、例えば一日に4,000歩以上歩き、そのうち早歩きが5分以上の場合には
うつ病を予防できる可能性があるということがわかりました。
気になる人が多いであろう生活習慣病の高血圧や糖尿病を予防したり治療するためには、
一日あたりの歩数が8,000歩以上で、その中に中強度の活動が20分以上含まれていると効果的です。
また、中之条研究をおこなった東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム副部長の
青栁幸利氏によると、運動をやりすぎると逆に免疫機能が下がってくることもわかりました。
以前、オリンピックメダリストの水泳選手の血液検査をおこなった結果、
筋持久力やヘモグロビンの値は驚異的だったのに対し、免疫機能だけは
一般人に劣っていたという事実もあるそうです。
65歳以上を対象にした中之条研究では、8,000歩で頭打ち、
それ以上は効果がないか逆に健康を阻害することが分かりました。
言い換えれば、1日8000歩と20分の中強度活動(早歩き)を実行していれば、
十分健康な高齢者でいられるということです。
秋は気候的にも運動を始めやすい季節です。まずはご自分がどうなりたいのかを考え、
無理のないことから始めてそれを継続していくことが大切です。
「今日は一万歩以上歩いたぞ!」と言って、翌日から2~3日家でゴロゴロしてしまうより、
「もうちょっと歩けるけど」という程度でもいいので日々継続していくことが大切だと考えられます。
当院では、運動後の疲労や痛みが出たときのケアはもちろん、
ウォーキングや運動時の注意点をその人のからだの状態などを踏まえて
お伝えしますので、お気軽にご相談ください。